プロフィール

ふくもり いくこ

千葉県野田市在住
2007年韓国へ嫁がせた娘の
結婚式の朝のことを、
詩にした「手」で、
埼玉りそな銀行「埼玉文学賞」
準賞を受賞。

2010年、生まれた孫や娘の
新しい家族と話す為、
ハングルを学んでいることを
詩にした「言葉」で、
羽生市「ふるさとの詩」で、
優秀賞を受賞。하뉴시에.jpg
三十代から生活に根ざした
詩を書き続けている。

 

 

 

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ふくもり いくこ

 

娘が嫁ぐ朝ソウルの町の横町を
私たちは黙って手をつないで歩いた
互いに「ありがとう」「カムサハムニダ」
しかわからない

留学したいと娘が言った日
何となく帰ってこないような気がした
あれから五年
娘は韓国の青年と今日式を挙げる

「韓国では私の娘」と言ってくれたオモニ
挙式の支度を一時間も早く
間違えて行ったしまった私の手を取り
早朝の町を歩き始めた
どこもシャッターがおりていた

低い土塀がまだ残り

人びとの暮らしが目覚めようとしていた
つないだ手と手に時どき力が込められ
私たちは黙って会話した
「カムサハムニダ」
「ありがとう」

それしかなかった

 


 

 

育む

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ふくもり いくこ

遙かなかなたより
祖先は海を越えてきたのか
困難な航海の果てに住みついたのかもしれない

そんな祖先の記憶が
なぜ突然娘によみがえったのか
辿った道をひき返すように
大陸に突き出る半島へ渡っていった

寄せては返す波の
時には荒ぶれ逆巻き
娘が行ったあちらとこちらを
いつか引き裂くことが起こりはしないかと
胸が張り裂ける

もしもなど
そんな事がある訳のない二人だが
私はひそかにすべてを含めて覚悟した

娘は遠い祖先のふるさととへ戻っていった
人を愛する為に

一番素朴な方法で歴史を育むために

 

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ふくもり いくこ

週に一度のハングル講座
全貞善先生のお国ではいつでも
「アンニョンハセヨ」
日本へ嫁いで初めての朝
隣のおばさんに「今晩は」と言ってしまった
以来 人と話すのが怖い
誰からも逃げるように過ごした 

「私にもお役に立てることがありますか」
ハングルを教えることで日本語が分かった
公民館で講座は十年になるという

韓国へ嫁いだ娘の新しい家族と話したい
三年前 貞善先生と出会った

「タリは橋  足の意味もありますよ」
日本でも足りる  橋脚という言葉がある
家族カジョク  安心アンシム  宇宙ウジュなど
時には全く異なる考え方をしながら
発音のよく似た言葉を重ね合う隣国

家族となり師弟となり
互いの心を浩くして私たちはどこまでも
支え合って生きていくだろう

生まれたばかりの小さな孫 浩伸(ホシン)に
いつかハングルの絵本を読んでやりたい
浩伸につながるずっと前の
おじいちゃんやおばあちゃんのことも話そう
わらべ歌も歌ってあげよう

覚えきれない未知の天空を
とまどいながらゆっくり伸びていく
私の言葉の架け橋

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